日本人にとって、かつて“八重歯”は不正咬合であるにもかかわらず“アイドルの象徴”的な歯並びでした。笑った時の口元を個性的にしてくれます。
コロナ禍での「マスク生活」。目元だけしか見えていないと、街中で偶然知り合いと出会っても、相手が誰なのか、わかりづらくなかったですか?顔のパーツの中で、「口元」はとても個性が出やすい部分なのです。
しかし、一方でその不正咬合(歯列不正)は“コンプレックス”の原因になり、むやみに抜いてしまったり、削って引っ込めたりと短期間でどうにかしようという人もたくさん存在していることも事実です。
歯並びは見た目だけでなく、その口腔内環境も変えてしまいます。特に不正咬合の場合は口腔内環境を悪くする原因となり、その結果、むし歯や歯周病のリスクが高まってしまうのです。
リスクが高まる要因として、まず「歯みがきがしづらい」ことが挙げられます。いわゆる「セルフメンテナンス」が十分に出来ないのです。
叢生などで歯が重なり合ってしまっていると、正常咬合に比べ歯みがきは確実にしづらくなります。
そう言うと「1日3回は必ず磨いていますよ。」と言われることもしばしばありますが、ここで重要なのは「歯を磨いている」という行為ではなくて、「歯を磨けている」という結果なのです。歯みがきを1日何回していても、磨けていなければ意味をなさないのです。
それに加え、不正咬合ですと歯ブラシでは届かない場所がたくさん出来てしまいます。糸ようじ(フロス)や歯間ブラシを使っても自分では磨けない場所も出てくるでしょう。そうなると、歯垢(プラーク)が口腔内にたくさん残ってしまいます。
プラークの中にはたくさんの「口腔内常在菌」がいます。その中には口腔外からの外敵侵入を阻止してくれる大切な細菌もいます。日本人成人の8割は歯周病であるという統計もあります。8割=私も含めて、ほぼみんな歯周病であると考えていいんじゃないかな。そうすると、歯周病菌も口腔内に存在していることになります。むし歯が出来たことのある人はむし歯菌も存在しているでしょう。
私がこれまでに患者さんに歯みがきチェックをして「プラーク残渣0%」だった人はたったの3人しかいません。そのくらい口腔内の歯垢をすべて取り除くことは難しいのです。
正常咬合の人ですら難しい歯みがきが不正咬合の人であれば当然、もっと難しくなります。
むし歯を作らない・歯周病の進行を抑えるためにも、正常咬合のきれいな歯並びにして「セルフメンテナンス」がしやすい状況にしてあげることが大切なのです。そういった意味でも矯正治療はとても大切な治療なのです。